一輪の真紅の薔薇

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「そうなんです。  俺両親のいいとこ取りしちゃったんで。」  ご令嬢の瞳が潤んで見えて……。  ご令嬢の第一印象……。  全然OKだろ。  こんなに美人で  お嬢様とは思えないくらい一歩引いていて、俺なんかにも気を遣う。  俺だったら……  ……俺だったら?  馬鹿な想像だ。  俺は医者じゃない。 「あはは。  でも、聖時のお陰なんですよ。  俺がこんなに自由に好きなこと出来ているのは。  本当なら……  医者としてこの病院を継ぐのは……」  そう言いながらコーヒーカップに手を伸ばした。 「俺だったはずだから。」  だけど。  今となっては俺じゃない。  この政略結婚には初めから、俺の名前なんてかすりとも出ていない。  俺は医者の道にすら進んでいない。  それを今まで後悔したことなんて一度もない。  俺は事務長としてこの星野外科病院を守っていくんだ。 「聖時はまだまだ医者になりたての若輩だから……  何かと忙しいのかもしれません。  でも、今日のことは婚約者としてはあまりにもひどすぎる。  俺からきちんと注意しておきますから。」
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