一輪の真紅の薔薇

22/40
前へ
/441ページ
次へ
 俺の言葉に……  ご令嬢の表情が強張っていて。  聖時がこのご令嬢に嫌われないように……  無事に2年後、結婚出来るように。  ご令嬢のご機嫌を取るくらいしか、俺に出来ることなんてなくて。 「……聖時のこと嫌いにならないでやってください。」  ご令嬢は視線を逸らして俯いた。 「……嫌いになんて……  なっていませんわ……。」  その言葉に、小さく息を吐きだした。 「よかった。」  ご令嬢の言葉にホッと安堵して顔が緩む。  俯いていたご令嬢は顔を上げて俺と視線を絡めた。  俺の顔を見て、眩しそうに目を細める。  時折見せるその表情。  ……お嬢様……。  その顔……  マジでヤバイ。  普通で美人だから……  誘ってるようにしか見えないんですよ。    薄っすら開いた唇と細められた瞳が……  色気を増す。  冷静を装って話題を変える。   「クッキー食べてくださいね。  このティータイムが一段落ついたら、家の中をご案内しますよ。  聖時の部屋もせっかくだから。」  ご令嬢から親父に視線を移した。 「二人は結婚したらここに住むのか?」  親父は手にしていたカップをソーサーに置いた。 「ここにはたくさんの業者が出入りするからねえ。  出来ればそうしてもらいたいんだがね。  果たして知事が許してくれるだろうかね。」  親父の少し困った表情。 「星野家に嫁げば、わたくしはもう星野の人間ですわ。  ここに住むようにおっしゃられるのでしたら、喜んで参りますわ。」  ご令嬢はなんのためらいもなくそう答えたんだ。
/441ページ

最初のコメントを投稿しよう!

958人が本棚に入れています
本棚に追加