一輪の真紅の薔薇

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「悠子さんは随分と覚悟が決まっているのね。」  おふくろも俺と同じことを思ったみたいだ。 「もちろんですわ。  わたくしには聖時さんとの結婚がすべてですから。」  ……そうだな。  そりゃあ……そうだ。   「そうか……。  それなら、独り身の俺はお邪魔虫だな。  二人がここへ戻ってくる前に俺はここから出ていかないといけないな。」  クッキーに手を伸ばしながら呟いた。 「まあ、それまでまだ独身でいるつもりなの?  きらくんもそろそろ結婚して欲しいものだわ。」  おふくろの驚く言葉に俺は目を見開いた。  そんなこと言われるなんて思ってもみなくて。 「あはははは!  2年後はまだ35だよ。  そんなに慌てて嫁さんもらわなくてもいいだろ。」 「あら!もう35よ!!  呑気な人ね!」  おふくろは拗ねたように口を尖らせた。  ……いやいや、マジで?  俺……そもそも結婚なんてするつもりないんだけど。 「今はこのプロジェクトのことで結婚とかそんなこと考えてる余裕ないよ。」  そうゆうことにしておくのがきっと無難。  結婚なんてするつもりない。なんて言ったら……  この小言が永遠続く気がする。  手にしたクッキーを口に入れる。 「ん!?  美味いな!」  誤魔化すように言ったのに…… 「きらくん、誤魔化さないの。」  おふくろの声音は少しとがっていて。 「まあまあ、今日はその話は……。  俺も出来る限り善処させていただきますよ。」  ……するつもりなんて、さらさらないけど。  コーヒーカップに手を伸ばして、少し冷めたコーヒーを一気に飲み干した。  ここに長居は無用。 「さあ、悠子さん。  行きましょうか。」  ソファからスッと立ち上がる。
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