一輪の真紅の薔薇

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「最近は俺の顔を見ると結婚、結婚って煩くて。」  なんて。……おふくろには今日初めて結婚のことを言われたんだけど。  そうゆうことにして言葉を続ける。 「話を終わらせるのに悠子さんをダシに使ってしまいました。」 「……そんなこと……気にしてませんわ。」  何となくご令嬢はそう答えてくれる気がした。 「ならよかった。」  笑顔を添えてソファに腰を下ろした。 「この部屋は医学部に合格するまで使っていた部屋なので。  もう10年以上空き部屋同然なんですけどね。  ふらっと帰ってくることがあるんで、そのまま置いてあるんですよ。」 「へえ……。」  ご令嬢の気のない返事。  つまらない話だったかな?  少し心配になったのも束の間で……。 「きらとさんには……いませんの?」  まさか  俺のことを聞かれるなんて。 「え?」 「あ、あの……  結婚したい方はいませんの?」    "結婚"  このキーワードは……  俺にはしばらく鬼門かもしれない。 「いませんよ。」    結婚したい相手はいない。 「……いないと言うか……。  俺自身が今結婚ということに現実味がないという方がしっくりくる。」  俺の話なんて……  どうでもいいことだ。
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