一輪の真紅の薔薇

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 他のふたつの空き部屋の案内も終えて、下へと降りる階段へ進む。 「今日はいつ頃帰られる予定なんですか?」 「……いつとか……決めていませんでしたけれど。  あまり長居してもお邪魔でしょうし、そろそろお暇させていただこうかしら。」 「お時間あるのでしたら、夕食一緒にどうですか?  いつも同じメンバーだから、悠子さんみたいな綺麗な方が一緒だと食卓が華やぎます。」  ご令嬢を夕食へ誘う。  特に深い意味なんてなかった。  節子さんの味を知ってもらうのもいいかもしれない。そう思っただけだ。  ご令嬢の頬がほんのりと赤に染まる。    ……こんなお世辞みたいな言葉で頬を染めるお嬢様に……。  軽く胸の奥がキュッとした。   「……みなさんがご迷惑でなければご一緒させていただこうかしら。」  そのご令嬢の言葉に胸が躍ったのも事実。 「それじゃあ、決まりだ。  下に降りてみんなに言いますよ。」  ご令嬢の言葉に満足して、一階へ降りてリビングに入る。  ご令嬢も俺の後に着いて中へ入ってきた。 「親父。」  一人用ソファに座る親父に声を掛けた。  親父は俺に顔を向けた。 「悠子さん、夕食一緒にいいだろ?」  親父は老眼鏡を外しながらご令嬢に視線を向けた。 「わたしは構わないが。  悠子さんが居るほうが、食卓が華やいでいい。」 「みなさまがよろしければ、是非ご一緒させてください。」  ご令嬢は親父の言葉にそう返した。
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