一輪の真紅の薔薇

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「節子さんに伝えてくるよ。」  ご令嬢に視線を向けて言葉を続ける。 「悠子さん、ソファに座ってください。」  そう声を掛けたけど……。  ここへずっといるよりはいいかもしれない。  そう思い立って。 「ああ、それか、夕食が出来るまで家の周りを散歩でもしますか?  行ったことあるかもしれませんけど、ここから聖公園近いんですよ。  今、多分、めちゃくちゃ大きいアヒル浮かんでますよ。」  たいしたことないただのアヒル。   そのアヒルを思い出して少し笑ってしまう。 「……あひる?」 「ええ、本当にアヒルです。  見たらわかりますよ。」 「……ええ。」  ご令嬢は小さく頷いた。 「あら、二人で出掛けるの?」  おふくろが奥のキッチンから姿を現して、俺たちに聞いてきた。 「ああ、悠子さんを我家の夕食に誘ったんだ。  それまで時間があるし、聖公園にでも行ってこようかと。」 「まあ、いいわね。  今日は天気もいいし、空気がきっと気持ちいいわ。」  おふくろもきっとご令嬢に気を遣っている。  聖時の代わりに俺がご令嬢の相手をしていることにおふくろはきっとホッとしているに違いない。 「節子さんに悠子さんのこと伝えてもらってもいいか?」 「いいわよ。」  おふくろは笑顔で答えた。  おふくろからご令嬢に視線を移した。 「それじゃあ、行きましょうか。」  
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