一輪の真紅の薔薇

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「あなたでよかった。」  思ったことを言葉にした。  ご令嬢はまた……  目を細めた。  ……色気が……増していく……。  今日の訪問者が親父の浮気相手じゃなくて  聖時の婚約者があなたで……  よかった。  本当にそう思っているのに……  俺の心の奥がズクンと疼くのは……  どうしてなんだ。  ご令嬢が俯いた。 「……そりゃあ……お義父様の不倫相手よりは……いいですわよね……」  ご令嬢がそう言葉にしたから。 「ええ、勿論です。  悠子さんで安心しました。」  俺はすぐに肯定した。  ───勿論。  それ以外に理由なんてあっていいわけがない。  ご令嬢はゆっくりと顔を上げて俺と視線を絡めた。  この美しいご令嬢は……  聖時の婚約者だ。  わかりきっている事実を自分の中で強く言葉にする。 「行きましょう。」  俺の言葉にご令嬢は小さく頷いた。  微妙な距離を空けてご令嬢と並んで歩く。  ふわふわと揺れる柔らかい髪に触れてしまわないように。  絶対に俺のものにはならない。  してはいけない。  このご令嬢に触れられない距離を保つことが必要。  今日初めてお目にかかって。  たったの1時間程度を一緒に過ごしただけなのに。  こんな風に自分の心に自制心を保たなきゃいけない自分の理性がよくわからない。  "絶対に俺のものにしてはいけない"  この背徳感が、俺の心に緊張を走らせて、変に意識してしまうのかもしれない。  
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