一輪の真紅の薔薇

32/40
前へ
/441ページ
次へ
 たかだか女性を連れて公園を歩くだけでこれだけの緊張感を味わっているのは正直初めてのことだった。  そんな俺の気持ちなんて気づくはずもないご令嬢は、突然質問してきたんだ。 「……"きらと"って……  どう書くんですの?」  その質問が俺のことで、正直嬉しかった。  隣を歩くご令嬢に視線を落とした。 「あはは。  煌めくに人ですよ。」    変わった名前だから最初みんな疑問形で俺の名前を聞いてくるんだ。 「中高生の頃はこの名前すっごく嫌いだったんです。」  高校生でさすがにいじめはなかったけど、中学の時にはこの名前で馬鹿にされたこともある。  キラキラ星~!とか。  苗字も星野だから……余計に。 「聖時の漢字も珍しいけど、聖時はまだ普通にある名前でしょう。  煌人なんて……。  俺の時代なんて、そんなにまだキラキラネームなんてない頃ですからね。」 「今どきのキラキラネームじゃなくて、本当にキラキラしたお名前ですわ。」 「あはは。」  ご令嬢の言葉に大きな笑い声が零れた。 「本当に!  名前自体がキラキラしてるでしょう。」 「ええ。……でも、素敵なお名前ですわ。」  ご令嬢の言葉に驚いて瞳を大きく開いた。 「あはははは。  そんな風に言っていただけて、本当に嬉しいです。  名前に負けないように必死です。」
/441ページ

最初のコメントを投稿しよう!

958人が本棚に入れています
本棚に追加