一輪の真紅の薔薇

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   変わった名前ですね。は、もう言われ過ぎて。  その返し方さえお手の物になっていた。  それでも30を過ぎて……。  最近この名前を気に入っている。  星野を守っていくために、俺がみんなを引っ張っていく。  みんながすぐに俺のことを見つけられるようにきらきらと輝く存在でありたい。  ……きっと親父が長男の俺にこの名前を付けたのは、そうゆうことじゃないかと思う。 「負けてなんていませんわ。  お名前通りに煌めいていますわ。」  そんなことを言ってくれた人は……  お嬢様が初めて。  無意識に足が止まる。  右手で顔を覆った。  何なんだ、このお嬢様。  ドストライクなんだけど……。 「あ、あの……」 「……ククク」  笑いを押し殺す。  この人は……  絶対に俺のものにはならない。  それに俺には、知佳というれっきとした彼女が居る。  そもそも。  結婚不適合者と自分で自覚もしている。  ふ~と、大きく息を吐き出して、顔から手を離した。  戸惑った表情のご令嬢に視線を向けた。 「有難うございます。」  俺が向けている笑顔は……  義理の兄としての笑顔になっているだろうか。 「悠子さん、もうすぐですよ。  大きなアヒル。」  不自然だったかもしれない。  急にアヒル話にシフトチェンジして、止まっていた足を進めた。  
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