一輪の真紅の薔薇

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 ご令嬢と歩く公園。  いつもの風景と何も変わらないはずなのに……。  初めて見るような新鮮さと楽しさで。  他愛もない会話をしながら公園内を歩く。  時折ご令嬢に視線を向ける。  ふわふわと揺れる髪と……  綺麗な横顔。  池に浮かぶ大きなアヒルにご令嬢は驚いた表情を見せた。  道行く人がそのアヒルに携帯を向ける。  SNSにのせたりするのかもしれない。    ご令嬢に視線を向けると写真を撮っている人たちに視線を向けていて。  ……もしかして?  スーツの内ポケットから携帯を取り出した。 「よかったらお撮りしますよ。」  ご令嬢が自分の携帯を手にすれば、それで撮ってもよかったけど。    何せご令嬢と会ってから、ご令嬢が携帯を触っているところを見たことがない。 「え……?あの……よろしいんですの?」  ご令嬢の遠慮した声音。 「勿論ですよ。」  笑顔で返した。  ご令嬢は緊張した面持ちで、池を背に俺の方へ身体も視線も向けた。  その笑顔は……  とても綺麗だった。  携帯を構えて……  裸眼で見るご令嬢に見惚れる。  シャッターを押すのを忘れてしいそうだった。 「はいチーズ」  無事に任務を遂行して。  ご令嬢の映り具合を確認するのに、携帯を覗き込んだ。  アヒルなんて……忘れてしまいそうなくらい、そこに佇んでいる人は綺麗だった。  ご令嬢の傍に行って携帯からご令嬢に視線を上げた。   「いい感じですよ。」  携帯の画面をご令嬢に向けた。
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