一輪の真紅の薔薇

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 ご令嬢は携帯を覗き込んで、安堵の表情を浮かべた。 「……初めてだから……緊張しましたわ。」 「……え?」  その発言に驚いて。  ……今時携帯で写真を撮ったことない人なんて……いないだろ。  ご令嬢は気まずそうに視線を反らした。  この人……。  正真正銘のお嬢様だな。 「あ、あの……。  次はどこに行きますの?」  お嬢様の初めてをゲットしてしまった俺は……。 「ククク……。」  何だか嬉しくて妙にテンションがあがる。  笑いが零れ落ちる。 「もっと沢山撮りましょう。  俺でよければカメラマンになりますから。」  俯いてしまったご令嬢に言葉を落とした。  ご令嬢は俺のその言葉にゆっくりと視線をあげる。  俺と絡んだ瞳が色っぽく潤んでいて。  ご令嬢の頬に触れてしまいそうになる手をグッと握りしめた。  その思いを誤魔化す様に、何かにつけてご令嬢にレンズを向ける。  こうでもしていなけりゃ……  俺の右手はお嬢様に触れてしまう。  ご令嬢は恥ずかしそうな笑顔を見せて。  何度も柔らかく笑う。  聖公園では時々フリーマーケットを開催していて。  人の並が多いと思っていたら、どうも昨日と今日が丁度その日のようだった。  きっとフリーマーケットなんて知らないだろうご令嬢にその意味まで説明して。  
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