一輪の真紅の薔薇

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   開いているフリマの通路を歩く。  ご令嬢は時々商品に手を伸ばす。  そして、値段を確認しては絶句している。  それが可笑しくて、可笑しくて。  俺からしたら普通の日常。  だけど、ご令嬢からすれば非日常。  それなのに、俺が案内する場所全てに微笑みを零していく。  ご令嬢の反応が俺からすれば新鮮で、何度も零れそうな笑いを押し殺す。 「フリーマーケット。  面白いですわね。」  ご令嬢は色気を含んだ声音で言った。  まさか、そんな言葉を聞けるなんて思ってもいなくて。  だめだ。もう無理……。 「あはは」  我慢していた笑いが噴き出した。 「気に入ってもらえてよかったです。」  思いっきり破顔してそう答えた。    傾いてきた太陽と突然吹き抜ける冷たい風。  その冷たい風にご令嬢は身体を震わせて身を縮めた。  俺はきっちりとスーツを着込んでいるからそれほど寒さを感じてはいないが……。  ご令嬢が羽織っている質のよさそうなカーディガンはどうみても薄手だ。 「少し冷えてきましたね。  温かいものでも飲みましょうか。」  ご令嬢は俺の提案に小さく頷いた。  コーヒーショップでロイヤルミルクティとコーヒーをテイクアウトした。  ご令嬢を公園のベンチに座らせてロイヤルミルクティを手渡した。  そのロイヤルミルクティを優雅な仕草で一口含んだ。  ホッとしたような表情を見て、俺もホットコーヒーを口に含んだ。  あとは……。 「悠子さん、少しだけここでお待ちください。  すぐに戻ります。」 「え?」  ご令嬢の問いかけに気づかないふりをして、まだ熱さの残るホットコーヒーをグイっと一気に飲み干して、さっきまでいたフリーマーケットの会場へ急いだ。
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