あてがわれた婚約者

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 それから……  何を喋ったかあまり記憶になくて。  普通にありそうな幸せな家庭を想像してそんな未来を口にした気がする。  子どもは3人欲しいとか  休みの日には家族でお出かけしたいとか  料理はしたことがないけど、旦那様のために毎日手料理を振舞いたいとか……  別に思ってもいないこと。  いえ……  この方を本気で好きになれれば……  全部本当のことになりますわ。  ……本気で好きになれば。  そして、最後にお相手のお父上が言われたんですわ。 「聖時との結婚は2年半後以降にお願いしたい。  聖時は今医者としての経験を積んでいる最中です。  今この若輩も結婚なんて考えられないでしょう。  それに、こんな未熟者を総合病院の院長にさせるわけにはいきません。  その修業が2年半後に終わって星野外科病院へ戻ってきます。  戻ってきたから一人前というわけでは決してありませんが、そこまでは聖時のことを待ってやって欲しい。  轟知事、よろしいですね。」  この言葉にはやけに威圧感があって……  お父様はそれに反論しなかった。  一流料亭で交わされたお父様同士の勝手な約束に  わたくしの人生も呑み込まれていく。  この2年半……  わたくしがどれほど苦しみ続けたか。  あの方に出逢わなければ……  聖時さんがわたくしを好きになってさえくだされば……  わたくしの胸は引き裂かれそうで。  ……この結婚に拒否権なんて  有りはしませんの。  ただ、静かに浮かぶ月を……  わたくしに振り向きもしない  わたくしになんて気付きもしない  この静かな月を……追いかけるだけ。  わたくしは暗闇に咲く薔薇。  ひっそりと咲く薔薇の存在になんて……  誰も気付かないのですわ。
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