内に秘めた焦がれる恋心

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 悠子さんのことで気を取られ過ぎた俺は、知佳に連絡することをすっかり忘れていた。  悠子さんを送り届けた後に  『今日は無理かな?』  俺に気を遣うメールが届いた。  それを見てようやく知佳との約束を思い出した俺は……  知佳の彼氏だと胸を張って言えるのだろうか。  俺から会えると思うとメールして知佳に期待させておきながら。  罪悪感で胸が苦しくなった。  ……俺は……  今日一日……  何を考えてた 「はあ……。」  溜息とともに顔を覆った。  時計に視線を向けるともう21時を過ぎようとしている。  今から行こうと思えば行ける。    だけど  今から行っても知佳を抱いて帰るだけだ。  知佳にメールする手を止めて、電話をかけることにした。  電話帳から知佳を探してコールする。  発信音はすぐに途切れた。  知佳はこんな最低な俺の事をずっと待っていたに違いない。 【もしもし……】  知佳の寂しそうな声音。 「……知佳……悪い。」 【いいの!】  知佳は焦った声音でそう言った。 【いいの。  煌人が忙しいこと……わかってるから。】 「……知佳……」 【だって、仕事だったんでしょ。】  知佳の声音が震えている。  今にも泣きだしそうな知佳の元へすぐにでも行ってやる男が  きっと本当の彼氏だ。 「……仕事……なわけじゃなかった……」  仕事のせいにして知佳に謝っていれば  俺たちの関係はまだ続いていたに違いない。
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