内に秘めた焦がれる恋心

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 だけど。  知佳のこれからの幸せを考えるなら……  俺なんかと一緒に居るべきじゃない。  聖時のことを抜きにしても、知佳と結婚したいかと問われれば……  答えはNOだ。 「はぁ……。  本当に最低だな、俺は……。」  携帯を指定の場所に置いて、アクセルを踏んだ。  知佳の部屋まで1時間半程度かかった。  時計の針は22時半になろうとしていた。  車を降りるとさすがに肌寒い。  昼間より明らかに気温が下がっている。  知佳の部屋の鍵をキーケースから選んで、鍵穴に差し込んだ。  何の抵抗もなく鍵はガチャッと音を立てて開いた。  その扉をゆっくり開けて部屋の中へ入った。  細い廊下をまっすぐ進むと奥に洋室の部屋が現れる。  知佳はソファの上で三角座りをして膝に顔を埋めていた。 「……知佳。  悪い、遅くなった。」  俺の言葉に顔を上げずに、頭だけ横に振る。  ……知佳は……  こうやって、いつも自分の気持ちを押し殺す。  俺は……それを"物分かりがいい彼女"にして、我儘さえ言えないような関係にしていたんじゃないだろうか。 「……知佳……」  俺は知佳の横に腰を下ろした。 「……言いたいことがあるだろ。  遠慮なく言え。」  俺のその言葉に、知佳はゆっくりと顔を上げた。  その瞳は赤く充血していて、潤んでいた。  その苦しそうな表情を見て、ズキっと心が痛む俺は勝手だと思う。 「……弟さんの婚約者と……何……してたの……?」  知佳の声が震えている。
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