内に秘めた焦がれる恋心

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「一緒に公園を散歩して、俺の両親と一緒に自宅で夕食を摂った。  その後に彼女を自宅まで送ってきた。」  知佳の表情がドンドン強張っていく。 「……弟さんは……?  どうして煌人が?  私に連絡する暇もなかったの?」  知佳の瞳から一筋の涙が零れた。  いくらでも言い訳出来る。  すごく我儘なお嬢様だった。とか  携帯を病院に忘れていた。とか  いくらでも。 「……今から話すことは、全部俺の我儘だ。  それで知佳を今以上に傷つけるかもしれない。」  知佳は視線を逸らして俯いた。 「弟の聖時には婚約者以外に好きな人がいるんだ。」 「……え?」  知佳は驚いた表情を貼り付けて顔を上げた。 「聖時とその婚約者との結婚は今時にない、政略結婚。  星野病院はいずれ、総合病院になる。」 「総合……病院……?」  知佳には仕事の詳しいことまで話したことはなかった。 「そうだ。  総合病院にするための条件が、知事から提示された知事の娘との結婚だ。  総合病院の院長になる医者の息子。  その息子との結婚。  本当なら、その知事の娘との結婚の相手は……  俺だったはずだ。」 「……煌人……」 「その結婚まであと2年。」 「だけど……。  煌人はお医者さんにならなかったんだから……  関係ないことなんじゃないの?」  知佳の言葉に小さく笑う。  知らない人から見れば、そうだよな。  医者にならなかった俺には聖時と同じ土俵にすら上がれない。  医者と……  事務長  俺がいなけりゃ、星野はとっくの昔に潰れていたかもしれない。  その星野を俺が立て直してきた。  だけど、そんなこと誰も評価しない。  医者かそうでないかで判断するんだ。  長男は医者になれなかった。  落ちぶれた果ての事務長。
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