内に秘めた焦がれる恋心

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 知佳の瞳をまっすぐに見つめる。 「俺は自らの意志で事務長になった。  そのことを後悔したことはない。  ……だけど。  本当は俺だったはずななのに……。  それが……頭の片隅から消えない。  結婚したい相手を連れてきた聖時は親父に受け入れてさえもらえずに、2年で別れることを迫られた。  聖時だけ好きでもない人と結婚させられて……。  俺は───」 「煌人!」  知佳が俺の名前を呼んでまた涙を流した。 「……私は……煌人が好き……。  月に2回くらいしか会えなくても、煌人と一緒に朝を迎えられなくても……  私は煌人と別れたくない。」  知佳の瞳からドンドン溢れてくる涙。 「だけど……そう言うと煌人が苦しくなるの?」  知佳は……  こうやって、いつも俺の事を考えているに違いない。 「知佳……」  知佳の全てを受け止める覚悟がない俺が、知佳の零れ落ちる涙を拭う権利があるのだろうか。  自分の気持ちに迷いがあって、手が……伸びない。 「こんな風に思う必要なんて本当はないのかもしれない。  それでも、俺は星野の長男として生まれてきて、長男として進むべき道があったんだ。  それを、自分の意志で捻じ曲げた。  だからどうしても、聖時に対しの罪悪感が消えない。  聖時に結婚したい相手がいなければ、俺もここまで悩んだりはしなかったと思う。  ……今回の聖時の政略結婚のことがなかったとしても、俺は誰とも結婚はしない。  結婚っていう概念がよくわからない。  それに縛られていなくても、愛する気持ちや好きな気持ちは変わらない。」  知佳は両手で顔を覆って俯いた。  
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