内に秘めた焦がれる恋心

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 "「死んだ   美沙緒は車にはねられて……死んだよ……」"  聖時の苦しそうな声音が頭の中でグワングワンと揺れる。  ……それは……  不慮の事故で。  彼女が悪いわけでも、聖時が悪いわけでも、もちろん悠子さんが悪いわけでもないはずだ。  だけど……  そんな悲運……あるか……?  胸の奥がムカムカしてくる。  耳に押し当てていた携帯を握る手を力なく垂らす。  ドカッとソファに荒く座って両手で顔を覆った。  ……神なんて……居ない  この悲運を  運命ととるか  試練ととるか  ……こういう運命だったのかもしれない。    そう思うしかない。 「……そうだろ……」  力なく呟いた。  星野を存続させるための政略結婚。  聖時には拒否権なんてなくて  結婚を考えていた彼女が不慮の事故だったとしてもこの世からいなくなってしまったのなら  もう拒むものはなにもなくなったわけだ。  聖時もそう言ってたな。  "「これで俺にはあの人と結婚するためのハードルは何もなくなった。   親父も兄貴も……俺を好きなようにすればいい」"  聖時も……  聖時なりに覚悟してるってことだ。  好きでもない人と結婚する地獄の未来を。
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