内に秘めた焦がれる恋心

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 知佳の小さな声音はしっかりと俺の耳に届いた。 「……ごめん……」  そう言いながら知佳は握っていた俺と繋がる手の力を緩めた。  もう、俺が力を緩めれば二人の手は完全に離れてしまう。 「……どうして謝るんだ。」  俺の問いに知佳はウエディングドレスから俺に視線を向けた。 「煌人が好き。  ずっと一緒にいたい。  この気持ちは今も変わらないの。  ……だけど、どうしても結婚を諦められない。」 「それは謝ることじゃないだろ。」  知佳に小さく笑った。  知佳は今にも泣き出しそうで瞳を潤ませる。 「違うの。  ……実は……半年前くらいから……  結婚を前提に付き合ってほしいって……」  知佳は俺から視線を逸らして俯いた。 「あの……その人のこと別に好きでもなんでもなくて。  そもそも私には煌人がいたし。  だから……焦って結婚したいなんて言っちゃたの。  ……だけど、やっぱりショックだった。  煌人とはいつか結婚できるってあの時まで信じて疑ってもなかったから。」  やっぱり俺は、知佳を苦しめていたんだな。  俺は……知佳の手を……離した。 「今でも、その人より煌人の方が何倍も何十倍も好き。  でも……  それでもいいって……いつか煌人より自分のことを好きになってくれるのを待つし、好きになってもらえるように努力するって、言ってくれたの。」  知佳は顔を上げた。  その瞳は強くてまっすぐで。 「その人と結婚しようと思う。」
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