内に秘めた焦がれる恋心

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 いつもより急いで食事をして、最近は悠子さんが煎れてくれる玉露を飲む。  夕食の〆は玉露でしょう。  ……俺だけかもしれないけど。 「ご馳走様でした。」  きっちりと両手をあわせて言葉にした。  悠子さんに視線を移して、「リビングでも大丈夫ですか?」そう訊ねた。 「……え、ええ……。」  悠子さんはリビングに視線を向けながらぎこちなく答えた。  聞かれたくない話かもしれないな。  俺の直感が作動する。 「応接間に行きましょうか。」  ダイニングの椅子から立ち上がって、節子さんに視線を向ける。 「節子さん、応接間に紅茶とコーヒーをお願いするよ。」 「悠子が持っていきますわ。」  節子さんが答える前に悠子さんが慌ててそう言葉を挟んできた。 「それじゃあ、悠子さんにお願いしますね。」  節子さんはいつもの笑顔で答えた。    俺だけ先に応接間に向かって、部屋の電気をつける。  夜はまだ涼しくてクーラーや扇風機の類はなくても過ごせそうだ。  ソファに座ってしばらく待つとコンコンと遠慮した音が響いた。  その音に立ち上がり部屋の扉を開けた。  悠子さんはたかだかふたつのカップの為に、ワゴンを押して来ていた。 「溢したらいけないと思ってワゴンに……」 「賢い選択ですね。」  俺の笑顔に悠子さんは安堵の表情を見せた。    ようやく二人でソファに腰を下ろして、冷めないうちにコーヒーの香りを堪能する。  悠子さんから話しかけてくるのを暫く待ったが、言葉がないので俺から話を振ることにした。 「……ここなら話せますか?」  悠子さんは俺の言葉にゆっくりとティーカップから視線を上げた。  
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