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「俺には何でも話してください。
出来るだけのことはしたい。」
悠子さんは……
左手を胸に当てた。
「……聖時さんに恋人がいらしたこと……ご存知です?」
……美沙緒さん……のことだろうか。
それよりも……
「聖時に恋人がいたことを知っていたんですか?」
悠子さんは視線を逸らして「ええ」と、答えた。
「ですけど……。
悠子とのことがありましたらか、お別れになられたのかもしれませんわ。
悠子が聖時さんのマンションへ行くことを断られたことはありませんし、恋人らしい方のお姿も拝見しませんから……。」
「亡くなった……らしいです。」
「え……!?」
悠子さんは逸らしていた視線を勢いよく戻して瞳を大きく見開いた。
「恋人の方がですの!?
い、いつ……!?」
悠子さんの慌てぶりに少し驚いてしまう。
「……もうかなり前です。
悠子さんとの結婚の話が出てきて結構すぐのことだったと思います。
1年半は前ですけど……。」
「1年半……。
それって……悠子がこのご自宅へ初めて来た頃ではありませんの?」
……その時期を知ってどうするんだろうか?
「申し訳ない。
そのころの記憶はもう曖昧で。
しかも、タイムリーで聞いたわけではなかったので。
俺も後になって聖時から聞いたんです。」
知佳と別れる頃に聞いたような気がする。
「だけど、多分、悠子さんがここへ来られた後だったと思いますけど。」
その言葉に悠子さんの表情がみるみる蒼白になっていく。
「悠子さん?
どうしたんですか?
大丈夫ですか?」
クラッと身体が傾いて。
俺は驚いてソファから焦って立ち上がる。
慌てすぎて膝にテーブルがぶつかって、テーブルの上に置いていたカップが大きな音を立てた。
コーヒーがカップから溢れてテーブルを汚していたが、それをどうにかしようなんて思っている余裕なんて全くなかった。
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