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おふくろは軽めに診察を終えて、とりあえずは意識もあるし落ち着くまで横になっているように悠子さんに言っていた。
おふくろも節子さんも部屋から出て、悠子さんと二人きり。
……二人きりになるのは……初対面の時以来。
悠子さんの青白い顔に声をかける。
「暫く休むといいです。
目が覚めたら、俺が屋敷まで送りますから。
今は何も気にせずに眠ってください。
伊部さんにも俺から連絡しておきます。」
悠子さんの瞳が潤んでくる。
今にも泣きだしそうな悠子さんの切ない表情に俺の胸の奥がギュッと苦しくて締め付けられる。
「……何か……あったんですね……。」
悠子さんの口が薄く開いて……それでも、何かを躊躇っている。
「その苦しみを……俺にも分けてください。
力になるって言ったでしょう。」
小さく笑うと、悠子さんの瞳から一筋の涙が流れ落ちた。
「……仕方……ないのですわ……。
悠子は……突然現れた婚約者ですもの……。」
悠子さんはゆっくりと喋り始めた。
「聖時さんの恋人の方にも……偶然会ってしまいしたの……。
その時に……悠子は……あの方を追い詰めるようなことを言ってしまったのかもしれませんわ。」
悠子さんの瞳から涙が溢れてくる。
「聖時の恋人に……会ったことがあるんですか?」
「……ええ。
一度だけ。
……ですけど、そのことを聖時さんはご存じないかもしれませんわ。
聖時さんに会いにマンションに伺いましたの。
そしたら……その部屋にいらしたのはその恋人の方のみで……。」
悠子さんは……零れ落ちる涙を自分で拭った。
「それから、その方にお会いしたことはありませんの。
だからてっきり……。」
悠子さんは言葉を止めた。
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