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悠子さんはしばらく声を殺しながら苦しそうに泣き続けた。
傍で見ているだけの俺は何もしてあげられなくて……。
好きだと気付いた時には……
すでにこの想いの行き場なんて存在しない。
ただただ押し殺して……
胸の内に秘める以外に……。
自分の気持ちを悠子さんにぶつけたところで、迷惑なだけだ。
俺は……
悠子さんにとって
ただの義兄でしかない。
悠子さんの苦しそうな泣き声が消えると……
スースーと規則的な寝息が聞こえてきた。
泣き疲れて眠ったに違いない。
ソファから立ち上がって、悠子さんの顔を覗き見る。
シーツと両手でほとんど顔は隠されていた。
それでも長いまつ毛は涙が残っていて……怒りと悔しさが込み上げてくる。
音を消して、客室を後にする。
急ぎ足で親父がいるリビングへ急いだ。
「親父!」
リビングに入るなり親父の姿を確認するわけでもなく、声を荒げて呼んだ。
親父は自分のソファに座って神妙な顔つきをしていた。
「ああ、煌人。
悠子さんはどうだ?」
親父は俺とすぐに視線を合わせた。
俺は怒りに任せて、親父に近寄りながら言葉を吐き続けた。
「聖時を今の職場から異動させられないのか!?
悠子さんがいながら、聖時は他の女と遊んでやがる!」
そう、それがまず気に食わない。
彼女が亡くなってそれ以降、聖時は結婚はしない。とは言わなくなった。
それはイコール、星野のことを思ってこの理不尽な政略結婚を受け入れたということだ。
それなら!
悠子さんに心を開く努力をするべきだ!
悠子さんって婚約者を差し置いて、他の女と遊ぶとか……
何様なんだ!!
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