内に秘めた焦がれる恋心

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「悠子さんは聖時とのことでずっと泣いてるんだ。」  これがふたつめ。  そう……  こんな聖時のことを……  悠子さんは好きなんだ。  じゃなきゃ、こんなに苦しそうに泣いたりしない。  二人はいずれ結婚するわけで。  だから、悠子さんが聖時のことを好きならそれが一番。  ……だけど。  俺の心が苦しいのは……事実。  悠子さんが好きな相手は……  俺じゃない。 「今、聖時がどこの誰と付き合ってるかなんてそんなことまで知らない。  だけど、職場が変われば、きっとその女とは縁が切れるはずだ。  今の聖時がそこまで真剣に誰かと付き合ってるとは考えにくい。」  親父は俺の一方的な言葉に面食らっていて。 「煌人、ちょ、ちょっと待ちなさい。  ……なんで、そんなこと断言できる。」  親父は……聖時の今までの女関係を知らないからな。  高校生の頃のこととか…… 「悠子さんが聖時にかけた電話の後ろから声がしたそうだ。  女の声……聖時の首筋はいい匂いがする。  そう言ってたらしい。」  親父は言葉を失って、顔から血の気が引いていた。  これが一番俺の苛立ちを募らせる。  一気に沸点だ。  どうしてわざわざ女と一緒の時に電話に出た!?  百歩譲って、他の女と遊ぶのはよしとしよう。  それなら! 「婚約者に隠れることもしない。  堂々と女遊びをしていることが俺は一番許せない!」  俺は両手を力いっぱい握りしめた。 「なんなら、今から聖時のところまで行ってぶん殴ってやりたいくらいだ!  悠子さんだって、自らの意志で聖時と結婚するわけじゃないはずだ!  どうして悠子さんのことを考えてやれないんだよ!!  俺がっ!!…………」  婚約者だったら……  医者にさえなっていれば……  悔しくて。  この込み上げてくる悔しさを……  俺はどこにぶつければいい。 「煌人、わかった。  ……わかったよ。」  親父はそう静かに言ったんだ。  
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