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わたくしの姿を見ると、絶対に固まった表情になる。
聖時さんに歓迎されているわけではないと……いつもこの瞬間に痛感して、思い出しても仕方ない方を思い出してしまうのですわ。
いつも眩しい笑顔でわたくしを迎えてくださる煌人さんのことを。
「……今日はどうされたのですか?」
静かな月は悪びれることもなくそう聞くのですわ。
「まあ、聖時さんったら、またメールを見てくださっていらっしゃらないの?」
「……忙しくて、すみません。」
この返しにも慣れましたわ。
「お仕事ですもの、仕方ありませんわ。」
そう答えて……
わかったふりをしているのですわ。
本心は全然納得なんてしていませんわ。
メールを見る暇くらいあるはずですもの。
仕事が終わって携帯を一度も触らないなんてそんなことありませんでしょう。
「まあ、いいですわ。
レストランの予約してますのよ。
今から連れて行ってくださいません?」
これくらい強引でないと聖時さんはわたくしとどこかへ行ってはくださらない。
「今から……?」
聖時さんは難色を示した。
「今日は……とても疲れていて。
また後日でもよろしいですか?」
この方はわたくしがここで何時間も待っていたことなんて関係ないのですわ。
それを悪いとも思ってくださいませんの。
……そう、わたくしが勝手に聖時さんを待っているだけですから。
「後日って?
いつですの?
具体的に日程を言ってくださらないと、悠子も困りますわ。」
「そんなこと言われても……
また俺から連絡しますから。」
「聖時さんから連絡なんて今まで一度もありはしませんわ。」
玄関の自動扉が開いて誰かが入ってきた。
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