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その方に視線を向けて……
わたくしの言葉は止まってしまった。
「フウ……」
聖時さんが吐いたため息にドキッと心臓が跳ねる。
好かれるどころか
ドンドン嫌われているんじゃないかと不安になる。
「とりあえず、今日はお帰りください。
俺も今日はシャワーに入って、そのまま眠りたい。」
聖時さんは低くて滑らかな声音でそう言葉を吐き出すと、わたくしの言葉なんて待たずに行ってしまわれたのですわ。
その後姿を追いかけることも出来ない。
なんて惨めなんでしょう。
あの方と……
わたくしは結婚するのに。
一緒に結婚生活を送る光景すら想像できない。
聖時さんの心を求めなければ……
こんな惨めな思いをしなくてすむのでしょうか。
2時間待って会えた聖時さんはわたくしの前から2分で消えていった。
ソファに置いたままのバッグを取り上げて、逃げるようにエントランスを後にした。
わたくしは……
何のために聖時さんと結婚するんですの?
"結婚"って……
何ですの!?
心の奥がぐしゃぐしゃで
ドロドロで……
ただ愛されたいと思うことが……
こんなに苦しいことなんですの……?
零れ落ちてくる涙を拭いながら気づく。
……そうでしたわ。
この結婚にお互いの気持ちは不要。
聖時さんがわたくしを好きになる必要もないし
わたくしが聖時さんを好きになる必要も……ないのですわ
わたくしたちは家と家が結びつくだけの……
道具なのだから。
「……だから……どうしてですの……?」
苦しい時に頭をよぎるのは……
いつも煌人さんの眩しい笑顔。
「煌人さんは……関係ない……
煌人さんは……」
本当は……聖時さんではなくて
煌人さんに……
会いたい。
煌人さんの声を聴いて
煌人さんの笑顔を見たい
こんなこと……
口が裂けても言えることではありませんわ。
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