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伊部の運転する車に揺られて屋敷に戻ると、ちょうどお父様もお屋敷へ戻られたところだった。
「ああ、悠子。
遅い帰りだねえ、どこへ行っていたのかね。」
疲れた顔をしたお父様はわたくしの行き先を気にしていた。
「……聖時さんのところですわ。」
その言葉にお父様は頬を緩めた。
「そうか、仲良くやってるのかね。」
全然仲良くなんてしていませんわ。
そう答えたらお父様は何て答えるのかしら?
「……お父様……」
「どうした?
深刻な顔して。
まあ、座りなさい。」
お父様はリビングのソファに座るようにわたくしを促した。
小さく頷いて、ソファに座る。
すぐにメイドがやってきて、お父様の前にお酒を置いた。
そして、私の前にはロイヤルミルクティーが静かに置かれた。
お父様ははすぐにお酒のグラスに手を伸ばして一口含んだ。
「どうかしたのかね?」
グラスを置きながらお父様がもう一度訊ねてくれた。
「ただ純粋に質問してもよろしいですの?」
「ああ、なんだね。」
「……もし、悠子が
聖時さんとの結婚は嫌だと断ったらどうなるのです?」
内心とても緊張していて、心臓のドキドキが強くなる。
それに気づかれないように平然と聞いた。
「それはもう、星野は潰れる以外に道はないね。」
ドクンッ!!
お父様の冷徹な声音。
ゾクッと背筋が凍りついた。
なんの躊躇もなく吐き出されたその言葉。
「聖時くんと喧嘩でもしたのかね?」
お父様の鋭い瞳が私の胸の奥を見透かしていくようで。
「喧嘩なんてとんでもないことですわ。
聖時さんはいつも悠子に優しくしてくださいます。
聖時さんとの結婚まで楽しみで仕方ありませんわ。」
自分の気持ちを誤魔化す様にミルクティーに手を伸ばした。
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