許されぬ想い

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「まあ、星野の未来のことなど悠子が考える必要はないのだよ。  もし、本当に聖時くんとの結婚が嫌になったら言いなさい。  好きでもない相手と無理やり結婚することもない。  悠子はこの私が幸せにしてやる、何も心配は要らないよ。」  お父様は頬を緩めた。 「……ええ。」  ミルクティーを一口だけ含んで、ソファから立ち上がった。 「先に部屋へ戻りますわ。」 「ああ、おやすみ。」 「おやすみなさい。」  お父様に答えてリビングを後にした。  わたくしは……  どこに向かって歩いているのでしょうか。  お父様に逆らうことも出来ず  聖時さんとの結婚をやめる勇気もなく  愛されているわけでもなく……  ただ  ただただ……  大きな渦に呑み込まれて  暗闇に囚われていく。  見えるのは……  その暗闇に静かに浮かぶ月だけ。  わたくしのことに気づきもせずに浮かんでいるその月を……  見失ってしまわないように必死に追いかけている。  その月さえ見失ってしまったら……  わたくしは本当に暗闇の中に閉じ込められてしまう。  "「星野は潰れる以外に道はないね。」"  お父様の冷めた声音が頭の芯を突き抜けていく。  星野外科病院が潰れてしまったら……  煌人さんは……  どうなるのです?  あの眩しい笑顔が消えてしまうことだけは……  絶対に嫌。  ああ……  わたくしはいつの間にか  煌人さんのために  ……煌人さんのために……  この理不尽な結婚を受け入れようとしているのですわ。  わたくしが聖時さんと結婚すれば……  あの笑顔をずっと見ることが出来る。  ───太陽のように眩しい笑顔。  どうか……  その笑顔が……  いつまでも枯れませんように
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