あてがわれた婚約者

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 お母様は左手に彼岸花、右手にハサミを持っていて。  それを一旦テーブルに置いた。  お母様はこの時間になると毎日お花を生ける。  彼岸花を見て、もう9月になったんですのね。なんて考えていた。   「さっきまでここにいたんだけれど。  ……自室へ戻ったのかしら?」  お母様はリビング内にぐるりと視線を彷徨わせて、わたくしに視線を向けた。 「そうですのね。  それじゃあ、伊部の部屋に一度行ってみますわ。」  お母様にそう言葉を残してリビングを後にした。  伊部家は代々轟家の執事をしている。  伊部で5代目。  だから、伊部の自宅は離れにありますの。  この屋敷内に執事の控室として伊部の部屋が一部屋ありますの。  その部屋に向かう。  扉の前に着いてコンコンとノックする。 「はい。」  伊部の低い声音が扉の奥から聞こえてきて、その扉が開いた。  ヌッと現れた伊部の顔を見上げる。  伊部は常に無表情で感情の起伏があまりない。  言われたことを淡々とこなしていく。 「悠子様、どうされましたか?」 「伊部が教えてくれた聖時さんの電話番号あってますの?  何度かけてもお出にならないのだけど。」 「星野様の秘書の方にお聞きしましたから、間違いないと思いますが。  一度確認いたしましょう。  お部屋へお伺いしますので、そちらでお待ちください。」  伊部はそう答えると部屋へ戻っていく。  自分の部屋へ戻ってしばらくすると、ノックの音がして扉を開ける。
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