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聖時さんの首筋の匂いなんて……
わたくしは嗅いでみるほど近くにいたことなんてない。
聖時さんの車の乗り降りの際に手を貸してくださるだけで、手を繋いで歩いたこともないし、キスだってありませんわ。
勿論、それ以上のことも。
それだけ、近くにいるのなら……
そういう仲ですわよね。
……あれだけのイケメンなら、そんな方の一人や二人、いらしてもおかしくはないかもしれませんわ。
耳に押し当てていた携帯をゆっくりとさげる。
「ふふ……」
乾いた笑いが零れた。
聖時さんとそんな仲になりたいと望んだことは正直一度もありませんけど……。
フィアンセのわたくし以外にそんな身体を許す方がいらしたことが、なんだかとてもショックで……。
やっぱりそういうことなんですわ。
わたくしのことなんて好きになるつもりなんて毛頭なくて。
結婚は形だけ。
だから、わたくしのことはどうでもいい。
「……こんな結婚……したくなんて……ありませんわ……」
苦しくて……。
胸の奥が押しつぶされそうで。
わたくしの結婚のお相手の方が煌人さんだったら……。
何度もそう思って、何度もそれを打ち消してきた。
聖時さんがわたくしを好きになってくだされば……。
煌人さんのことを考えなくてもすむかもしれない。
そんな儚い願いにすがりついてきた。
"「星野は潰れる以外に道はないね。」"
お父様の冷たい声音が頭の中で響いて。
「……煌人さん……」
消しても消しても浮かんでくる
あの眩しいほどの笑顔が……
「……たすけて……」
涙が零れ落ちてくる。
携帯を握りしめて両手を胸に押し当てた。
わたくしを救ってくれる太陽にならないかと……
この暗闇から救い出してくれる唯一の太陽にならないかと……
儚く願う。
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