許されぬ想い

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 煌人さんの残像を堪能して……  ゆっくりと起き上がる。 「さあ!  お掃除させていただきますわ!」  煌人さんのものに触れたと思うだけで元気になった気がして。  昨日の聖時さんとの電話のことも……  聖時さんがわたくしの婚約者だという事実も……  忘れることが出来る……  煌人さんのベッドのシーツを剥がして、綺麗なシーツに変える。  掃除機のかけかたも上手になって、拭き掃除もお手の物。    雑巾の絞り方から節子さんに教えてもらいましたから。  ここへ伺うようになって、自分がいかに井の中の蛙だったかを思い知ったのですわ。  わたくしは何も知らない。  伊部からは何度も言われたことがある言葉。  だけれどそれは、伊部がどこへ行くにも着いてくるからだと今まで伊部のせいにしてきたのですわ。  ……もっと外の世界を知らなければ。  わたくしも世間の常識くらい知っていなければ……  星野家にいずれ迷惑がかかる。  今まで屋敷の中に籠っていることが多かったけれど、外へ出る機会を増やしましたの。  お料理教室もその一環。  わたくし、この一年で人として少し成長した。……と、自分では思っているのですわ。  煌人さんの部屋の掃除を終えてリビングへ戻る。  そのまま奥のキッチンへ向かうと節子さんと視線が重なる。 「悠子さん終わりましたか?」 「ええ。お掃除も随分と慣れましたわ。」  節子さんの優しい眼差しに笑顔で返した。  節子さんの手元に視線を向けると大根の皮をむいているところのようで。 「今日のメニューは何ですの?」 「豚肉のさっぱり大根おろしかけと大根サラダ。  それに大根ソテーですよ。」 「まあ、大根尽くしですわね。」 「ええ。  裏の奥谷さんが沢山取れたからって、これまた沢山大根くださってね。」 「今日はトマトは使いませんの?」 「勿論使いますよ。  大根サラダとスープはトマトスープですから。」 「ふふ。  本当に皆さんお好きなのね、トマト。」
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