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伊部はわたくしを見下ろして「間違いないようでございます。」そう答えた。
伊部の返答になんとなく納得いかなくて
「じゃあどうして聖時さんは電話に出られませんの?」
「星野様はお医者様でございます。
きっとお忙しいのでしょう。」
……そんなこと言われたら……
もう言い返せない。
わたくしのただの我儘になってしまいますもの。
「わかりましたわ。
それじゃあ、気を取り直してまた電話をしてみます。
有難う、伊部。」
伊部にそう告げて自室へ戻った。
それから一週間……
しつこく電話をかけましたのよ。
聖時さんは全く出てくださる気配がなくて。
諦めかけた時でした、耳に届く無機質なコール音が突然途切れたのは。
繋がらないと思いながらわたくしも電話をかけていたものだから、繋がったときに何を喋ればいいのかわからなくなってしまって。
「あ、あ、あの……」
なんて言葉がどもってしまう。
「お前、誰だ。」
とても冷たい声音が耳の奥に突き刺さる。
背筋が凍るほど。
「何度も何度も電話してきて。
どうやって俺の番号を知ったんだ。」
こんな冷たく喋る方……
わたくしの中に不安が積もっていく。
「あ、あの……
い、伊部ですわ……」
「イベ?」
「そう、伊部に聞いてもらったんですわ。
だってよろしいでしょう。」
「何がだ!?」
聖時さんの声音は低くて滑らかで……
ドンドンと怒気を含んでくる。
怖くて心臓の鼓動がスピードを上げる。
姿も見えない聖時さん。
あの時に見たあのお姿を頭で想像して強く瞳をつぶった。
「フィアンセなんですもの!
電話くらいしてもよろしいでしょう!」
携帯に向かってそう叫んでいた。
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