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「……聖時さんは……時々悠子とお食事に行ってくださいますわ……。
でも……それだけ。
恋人のように手を繋いで歩いたことすらありませんわ。
マンションに伺っても……仕事を理由にすぐに帰るように言われて。
……聖時さんはお優しい方です……。
だけど……悠子には……何を考えているのか全くわかりませんの……。」
煌人さんに話していると、あの時のことが鮮明に思い出されて。
深いため息が漏れた。
「昨日……珍しく一回目の電話でお出になられて。
ですけど……声が……聞こえたんですわ……」
「……声?」
「……ええ……
女性の……声ですわ……。
『聖時くんの首筋いい匂いがするね』……って……」
「………………」
煌人さんの表情は固まっていて。
それはそうですわよね。
いきなりわたくしからこんな話……
「……それは……そうゆう……こと……ですわよね……
電話はすぐに切られてしまいましたけど、これは聖時さんからの忠告なのかもしれませんわ……
悠子のことなんてどうでもいい、悠子のことなんて好きになるつもりもない。……きっと……そうゆうことなんですわ……」
自分で言葉にしながら、やっぱりこれ以外に理由なんて思いつかないと地固めしてしまう。
「どうして、こんなに悠子に心を開いてくださらないのか……。
この結婚に……お互いの気持ちは不要……
だから、聖時さんが悠子を好きになる必要も、悠子が聖時さんを好きになる必要もない。……何度もそう自分に言い聞かせてきましたの……。
だけど……」
煌人さんを好きになってしまったことを受け入れるにはあまりにも辛い。
聖時さんがわたくしを好きになってくだされば、きっと煌人さんのことを考えずにすむ。
……聖時さんを好きになれば……好きに……
こんな自分勝手な思い。
瞳からまた涙が溢れてきて。
「天罰が下ったんですわ……。」
苦しくて……声が震えた。
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