許されぬ想い

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 右手で胸を押さえて俯いた。  煌人さんの笑顔を見ることが出来て、涙が零れそうで。   「悠子さん?大丈夫ですか?」  煌人さんの慌てた声音が近づいてくる。 「ええ、大丈夫ですわ。」  強く瞳を閉じて……顔を上げるのと同時に瞳を開いた。 「煌人さんには恥ずかしいところを見せてしまいましたわ。  申し訳ありませんわ。」 「それは悠子さんのせいじゃない。」  煌人さんの力強い声音に小さく顔を横に振る。 「……今日は……もう帰りますわ。」  煌人さんには答えずに話を変えた。 「ええ、お送りします。」 「いえ、結構ですわ。  煌人さん明日もお仕事でしょう。  伊部に迎えに来させますから。」  煌人さんは小さく笑う。 「伊部さんもきっともう眠ってますよ。」 「……え?」  そう言えば……今、何時なのでしょうか?  リビングに視線を彷徨わせて時計を探す。  見つかるより先に煌人さんが教えてくれる。 「2時を回りましたからね。  俺が送りますよ。  伊部さんにもそのように伝えていますから。」 「……2…時……」  ようやくリビングの時計を見つけて時間を確認できた。  わたくしはあれから4時間近く眠っていたみたいで。 「もっ申し訳ありませんわ!  起こしてくださればよかったのに。  煌人さん、わたくしが起きるまで待っててくださったのでしょう。」  わたくしの焦った声音に「あはははは」煌人さんは大きな声を零して笑う。   「ええ。  でも、あなたを待つのは苦じゃなかった。」  煌人さんのその言葉に  零れ落ちる笑顔に……  ドキッと心臓が跳ねる。
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