暗闇に咲く薔薇

あてがわれた婚約者

「……あ……なた……まさか……」

　電話の向こうの聖時さんが息をのんだのがわかりましたの。

「轟悠子ですわ。
　聖時さん、全く悠子と連絡をとろうとはしてくださらないんですのも。
　悠子からご連絡差し上げてもよろしいでしょう？
　フィアンセなんですから。」

　"フィアンセ"という言葉を何度も強調した。

　そう言いながら……

　自分自身に言っているのですわ。

　わたくしは何があってもこの人と結婚する。

　どれだけ冷たい声だろうと

　愛情がなかろうと……

　紙の上だけの繋がり

　だけど。

　それがすべて。

　聖時さんが息を吐きだしたことは携帯越しからでもわかる。

「……そう……でしたね……
　……あなた……本気なんですか？」

　あれほど怒気を含んでいた声音に柔らかさが増した。

「……どういう意味ですの？」

「俺と本気で結婚なんてするつもりなんですか？」

「当たり前ですわ。」

　聖時さんの言葉に即答した。

「愚問ですわ。」

　この結婚に"NO"は有り得ない。

「聖時さんにお会いしたいのですけど。
　いつでしたらご自宅にいらっしゃるの？」

「……何しに会いに来るおつもりですか？」

　愚問。

「フィアンセなんですから、聖時さんのお顔を見に伺ってもよろしいでしょう。
　何かご都合がお悪うございますの？」

「……ッ……」

　明らかに聖時さんは言葉を詰まらせた。