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引っ越しされて一週間。
聖時さんの部屋は段ボールが山積みで何一つ片付いていない。
さすがに、こんな部屋ではゆっくり身体を休めることすらできないのではないかと、聖時さんの体調のことが心配になった。
少しは片づけをして、ベッドルームくらいは休まる環境にしてあげたい。
それに……。
新しいマンション。
恋人の方の形跡が伺えないこの場所で、……聖時さんに抱かれたいと思っていた。
心なんてなくてもいい。
聖時さんも遊びで色々な方とそのような関係になっているのなら、わたくしとだって出来るはず。
身体だけでも繋がってしまえば……。
わたくしは煌人さんを諦められる気がする。
煌人さんの弟である聖時さんに抱かれてしまった女。
聖時さんに抱かれたわたくしが、煌人さんを求めるなんてそんな汚らわしいこと……きっと出来なくなる。
"煌人さんが好き"と思うこの気持ちを、二度と開かない扉で閉めてしまいたかった。
「今日は当直とかではありませんの?」
「……そうですね。」
聖時さんの歯切れの悪い返事。
わたくしを……ここから追い出す方法を思案しているのかもしれない。
それでも、その言葉は……今までになかった言葉で。
聖時さんなりにわたくしを受け入れようとしてくださっているのかもしれない。なんて、思ってしまったのですわ。
絶対に、今日しかありませんわ
意を決して言葉にする。
「それなら今日はここに泊ってもかまいません?」
今夜を逃してしまったら……もう二度と無理かもしれない。
聖時さんと一夜を過ごす覚悟で今日はここへやってきた。
わたくしがこんなことを聞いたのも2年で初めてのこと。
気が遠のきそうになるほど強く刻む心臓の音が体中にこだまして。
聖時さんの返事を待った。
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