強大な岩と自分勝手な月

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   照り付ける夏の暑さのピークを過ぎた。  過ぎただけで、まだまだ暑い。  ねっとりと肌に纏わりつく湿気。    聖公園にはとんぼが飛び始めた。  まだまだ残暑が残る中……  知事の秘書から電話がかかってきた。  院内は冷房で外の暑さを忘れることが出来る。  少し事務作業が片付いた時だった。  プライベート用の携帯のバイブに気が付いて、胸ポケットから携帯を取り出した。  "指川さん"の名前に通話をスライドした。  総合病院の建設の件で何か進展があったんだろうか?  そう思いながら携帯を耳に押し当てた。 「はい、星野です。」 【もしもし、轟知事の秘書の指川です。】  この人の声音はいつも堅苦しい。 「はい、何かありましたか?」 【ええ、知事がお呼びです。  話があるから本日20時に屋敷に来るように。  とのこと。  お伝えさせていただきます。】 「今夜……わかりました。  都合をつけて伺います。」  知事はこうやっていつも突然呼びつけてくる。  こっちにも仕事の都合があるから、少し腹は立つが、仕方がない。  総合病院になるには知事の力が必要だ。  電話を切って、工藤に視線を向ける。 「工藤、悪いが今夜20時に知事の屋敷に行く。  一緒に来れるか?」 「お供します。」  工藤は考えるそぶりも見せずに即答した。 「いつも悪いな。」 「いえ、それが俺の仕事ですから。」  工藤は当たり前というような表情でそう答えた。  その言葉にフッと笑う。  時計に視線を向けて「そろそろ昼飯にしようか。」と、声をかけた。  工藤もチラリと時計を見て「そうですね。」と答えた。  工藤がスケジュール管理をしてくれるようになってから、俺は忘れずに昼飯を食べるようになった。  俺が食べなければ工藤も食べようとしない。  俺だけなら多少腹が減ってようが我慢すればいいだけだが、さすがに工藤は俺が雇ってる労働者だ。  休憩と食事の時間はきちんとさせてやらないといけない。
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