強大な岩と自分勝手な月

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 伊部さんの淹れてくれたコーヒーを一口含んでカップをソーサーに戻すと、部屋の扉が開いた。  恰幅の良い紳士。  轟大治郎が現れた。 「いやあ、急に呼び出して悪かったねえ。」  知事の登場に俺と工藤はソファから腰を上げた。  スーツ姿の知事に「いえ、大丈夫です」社交辞令を返した。 「まあ、座りたまえ。」  知事に促され、工藤と共にソファに腰を下ろした。 「病院の方は至って順調だねえ。」  知事はにこやかに笑いながら向かいのソファにドカッと腰を下ろした。 「ええ。お陰様で。  ……今日は何か不都合でもあったのでしょうか?」 「いやいや、そんなことはないよ。」  知事の言葉にホッと息を吐いた。  それと同時に伊部さんが部屋に入ってきて知事の前にもコーヒーを置いた。  知事のコーヒーは白く濁っていて、すでに伊部さんが知事好みの味にして出しているようだった。  それに手を伸ばして、知事はコーヒーの香りを堪能すると一口含んだ。 「土地の聖地も順調で、着工の時期の知らせが来たんだよ。」  知事は上機嫌でいつもより声音のトーンが高い。 「本当ですか!?」  その言葉は俺にとっても嬉しい。  夢に描いた総合病院が形になる。 「ああ。」  知事は軽く手を上げる。  その合図だけで、伊部さんは知事の前にウイスキーを置いた。
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