強大な岩と自分勝手な月

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「ああ、伊部。  煌人くんにも出してあげなさい。  工藤くんにも。」 「あっ……」  工藤の言葉を手で制した。  工藤の視線を感じながら 「いただきます。」  俺が代わりに答えると、工藤はそれ以上言葉を挟まなかった。  俺のその手で意味を理解したに違いない。    工藤は頭がキレる。  伊部さんは俺と工藤の前にもウイスキーを静かに置いた。  俺がそのグラスを取ると工藤もグラスを手にした。 「あははは。  乾杯としよう!」  知事がグラスを掲げたのを合図に俺と工藤もグラスを少し高めに掲げて「乾杯!」コツンとグラス同士を合わせた。  ぐびっと一口含んで、喉の奥に流し込んだ。  アルコール度が高いことが喉越しでわかる。 「着工は来年の6月だよ。」 「……6月……」  また、季節が巡る。 「その頃には悠子と聖時くんとの挙式も行いたいしねえ。」  知事の言葉にドクンッと心臓が強く脈打った。  ……悠子さんと…聖時の……結婚……  とうとうカウントダウンか  俺がいくら恋焦がれたって手に入らない人。  手にしてはいけない人。  それが……  県知事、轟大治郎の娘。  轟悠子。  この結婚に星野の未来がまんま乗っている。  くくれば、星野外科病院っていう個体。  だけど、そんな簡単なものじゃ片付けられない。  その中には親父やおふくろ、節子さん、もちろん俺も。  親族は自業自得だけど。  星野で働いてくれているスタッフを路頭に迷わせることになる。  腰掛で働いている人もたくさんいるけど、星野に骨を埋めて定年まで働く覚悟のスタッフもいる。  星野が潰れたらその人たちはどうなる?  中には50を過ぎた人もたくさんいる。  今から中途採用で同じほどの給料をもらえるところなんてないに等しい。  この聖の地区では一番大きな病院。  星野を頼りに生活してくれている患者。  俺の脳裏を駆け巡る沢山の人たちの笑顔。  星野だけは……  何があっても潰させはしない。  
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