強大な岩と自分勝手な月

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 事務長としてこの星野を守り抜くために出来ること。  聖時を……  総合病院へと道をすすんでいく星野の線路から脱線させないこと。    俺のこの恋心なんて……  スタッフや地域の人たちのことを思えば取るに足らない。  俺の行動一つが星野の運命を大きく左右する。  そう。  俺と聖時の行動。  聖時と俺の目指すべき先は一緒でなければならない。  俺だけじゃ星野は続かない。  聖時だけでもダメだ。  ……聖時とは、一度きちんと話した方がいいのかもしれないな。  そう結論付けたところで、知事は驚くことを言葉にした。 「それでね、煌人くん。  年が明けたらパーティを開こうと思ってね。」 「……パーティ?」 「名目は総合病院建設に向けての挨拶だがね。  そこで一緒に聖時くんのお披露目をしようかと思ってるんだよ。  私の息子になるんだからね。  ワハハハハ。」  知事は上機嫌で笑い、グラスのウイスキーを飲み干してしまった。  知事の言葉は……  壮大過ぎて、呑み込むのに時間がかかる。 「議員たちも出席するだろうからね。  これで、聖時くんの顔も知れ渡って、星野もまた一つ有名になる。  総合病院の院長の顔だからねえ。  あれだけの色男だ。  もっとメディアに出るものいいんじゃないかな。」  ゾクッと背筋が凍る。  ……この人は……一筋縄ではいかない。  デカい岩だ。  聖時の容姿すら何かの金儲けのひとつに考えているのかもしれない。 「まあ、テレビはまたにして、聖時くんに伝えておいてくれるかね。  年明けのパーティの件。」 「……わかりました。」  俺は小さく頭を下げて答えた。 「悠子も聖時くんとの結婚を楽しみにしているようでね。  式場なんかもそろそろ考えなきゃならん。」  知事の言葉がズキズキと心に傷を刻んでいく。  だからって、俺にはどうすることも出来ない。  
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