強大な岩と自分勝手な月

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「これからの楽しみが増えていい。」  知事はまたウイスキーを口に含んだ。 「そう言えば、一度聞いてみたかったんだが……」  そう前置きして俺に視線を向けた。 「煌人くんは医者になれなかったのかね?  それとも、ならなかったのかね?」  ……まあ、普通の人なら……気になるよな。  そのふたつには大きな違いがある。 「ならなかった。……ですね。  実際問題、医者の道を進んでみたわけではないので、医者になれたかどうかはわかりませんけど。」  営業スマイルを付け足した。 「長男なのに医者の道に進まなかったのはどうしてなんだ?  父上は何も言わなかったのかね?」  知事は……ただの興味本位で聞いたに違いない。  俺は知事を真っすぐに見据えた。 「長男だから進まなかったんです。  今の星野に医者は3人も要らない。  跡を継ぐ医者と、星野を安定させることが出来る経営者。  黙って進めばきっと医者になれる。  妹の凛子も医者になりましたし。  経営者になるには経営者になるための道を進まなければならない。  それこそ勇気がいる選択。  聖時には出来ない。……俺はそう考えたんです。  星野外科病院を守っていくために、長男として俺が進むべき道。  ……親父は、意外と何も言いませんでした。  きっと、聖時が居たから。  俺は自分の好きなように好きな道をここまで邁進してきました。」  俺の言葉に知事は満足そうに笑った。
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