958人が本棚に入れています
本棚に追加
凛子は本当に気が強い。
それでも……兄弟の中で一番星野のことを思っているかもしれない。
医者になって外科医にならなかったのは、聖時と俺のことを考えてのことだと思う。
外科医になった聖時をサポートするため。
医者にならなかった俺に気を遣わせないため。
昔から俺たち3人の調和を保っていたのは凛子だった。
凛子はあの電話から40分程度でオペ室に現れた。
長くてしなやかな黒髪をなびかせて、颯爽と現れた凛子は黒蝶のようだ。
ふわふわと患者の元へ行くと、満面の笑みを浮かべた。
「麻酔科医の星野です。
今から手術の準備を始めていきますね。」
初めて自分の病院のオペ室で麻酔をかけるだろうに、それほど困った様子もなく淡々と準備を始めていく。
あの電話から1時間後に無事に手術は始まった。
それを確認して「ふ~」と大きく息が漏れた。
オペ室を後にしながら、看護師が声をかけてくる。
「星野事務長助かりました!
有難うございました。」
俺に向かって頭を下げてきた。
多分、俺に電話をかけてきた人物。
「いや、俺は頼んだだけで何もしていない。
凛子先生にお礼を言ってやってくれ。」
「……あの先生は?
星野事務長の関係者ですか?」
「ああ、俺の妹だ。
それじゃあ、後は頼んだ。」
「はい、お疲れ様です。」
驚いた表情のその看護師を残してオペ室を後にした。
そしてまた……俺の携帯が鳴る。
その表示は"自宅"からだった。
プライベート用の携帯を耳に押し当てると、【あの、煌人さん。お仕事中に申し訳ありません】その声の持ち主は、節子さんだった。
最初のコメントを投稿しよう!