強大な岩と自分勝手な月

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 おふくろとの電話を切って、玄関の扉を開けた。 「煌人さん、お帰りなさい。」  節子さんの声に出迎えられた。 「ああ、悠子さんは?」 「リビングでお待ちです。」  急いで靴を脱いだ。  そこには綺麗に並んだ品のいいヒール。  悠子さんが俺を待っていることを告げていた。  リビングに入るとソファに座っている悠子さんが顔を上げて俺と視線を絡めた。  ドキッとするほど思いつめた表情で…… 「どうしたんですか?」  そう声を掛けながら、悠子さんが座るソファへ向かう。  俺の言葉に悠子さんは視線を逸らして俯いた。 「……あの……」  悠子さんのふわふわの柔らかい髪が肩からゆっくりと流れ落ちる。  悠子さんの横のソファに腰を下ろした。 「……聖時と何か……ありましたか?」  悠子さんは力なく顔を横に振る。 「……何も……ありはしませんわ……」  悠子さんの掠れた声音。 「……何も……」  そう言って悠子さんは口を閉ざした。  泣いてしまうんじゃないかと思うほど弱々しくて。 「聖時と……会ったんですか?」  俺は……  悠子さんと聖時がどんな頻度で会っていて  どんな付き合い方をしていて  どんな話をしているのか  何一つ知らない。  知りたいような、知りたくないような  聖時と会って楽しそうにしている悠子さんのことなんて……  やっぱり  知りたくはない 「昨日……マンションの前でいつものように待っていたら、帰ってきてくださいましたの。  たまには悠子も聖時さんに何かお食事でも作って差し上げようと思いましたから……。  ですけど……戻ってきてすぐに仕事に戻るって言われて……。  帰っては来ない。そうはっきりと言われましたの。」  悠子さんが吐き出す言葉に納得がいかないことが多すぎて。 「ちょ、ちょっと待ってください。」  俺のその言葉に悠子さんはハッとした表情になった。  
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