強大な岩と自分勝手な月

15/28
前へ
/441ページ
次へ
「煌人さん、頭を上げてください。  聖時さんは本当にお忙しい方だから……  悠子の辛抱が足りないだけですわ。  ……信じて……待ちますわ……」  いや、きっと……  また新しい女のところに行ったに違いない。  何のために前の病院から異動させたと思ってるんだ!?  クソ聖時!!  悠子さんの気持ちをどうして考えられないんだ! 「……悠子さん……」  かける言葉も浮かばなくて。 「……いつも煌人さんのところに来てしまって申し訳ありませんわ。  聞いてもらったら少し気持ちがすっきりしましたわ。」  悠子さんはようやく小さな笑顔を見せた。 「こんなことしか出来なくて……」  "俺だったら"  何度もこの言葉が頭の中を支配する。  俺だったら……  もっと悠子さんを幸せにしてあげられるのに。  もっと大切にして  もっと笑顔にして  もっと……愛を捧ぐのに……  俺の力ない声音に小さく顔を横に振った。 「そんなことありませんわ。  悠子にもっと辛抱しろと叱ってくださいませ。」  悠子さんの切ない表情が俺の胸の奥をギュッと締め付ける。  そんなこと……言えるわけがない。  そんな辛抱しなくていいんだ。    そんなのちゃんとした恋愛じゃない。  聖時に心底腹が立って。  はらわたが煮えくり返りそうなほどで。  俺はこの後、凛子が入った緊急オペが終わるのを待って、そのまま聖時のマンションへと向かった。  聖時の顔でも一発ぶん殴ってやらなきゃ俺の苛立ちが収まらない。  それほどまでに苛ついたままレクサスのハンドルを握った。  
/441ページ

最初のコメントを投稿しよう!

958人が本棚に入れています
本棚に追加