強大な岩と自分勝手な月

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 昨日はどこで何をしていたのか。  悠子さんとの待ち合わせはどうしているのか。  どれくらいの頻度で連絡を取り合っているのか。  ……聞きたいことは山ほどあるが、ここで聞いてしまったら、俺は間違いなく聖時を殴りそうだ。  冷静に聖時の話を聞かなきゃいけない。  言わなきゃいけないこともあるし。  だからあえて、車内で口を開かなかった。   聖時も喋りかけてこないまま、目的地に到着した。  俺が聖時に会いに来た理由を考えているのかもしれないな。  店に入って適当に空いてる席に二人で座る。     オーダーを取りに来た店員に聖時は「ブレンドコーヒー」を注文した。  聖時は俺に視線を向けて早速口を開いた。 「で?  わざわざコーヒーを俺と飲みに来たわけじゃないだろ?」  意外とせっかちだな。  おしぼりで手を拭きながら背もたれに身体を預けた。   「新しい職場はどうだ?  そろそろ慣れたのか?」 「……そうだな。」  聖時は素っ気なく答えた。  それが本題じゃないことをきっと見抜いている。 「お待たせいたしました。」  聖時が頼んだブレンドコーヒーはそれほど待たずに運ばれてきた。  挽き豆の香ばしい香りを纏わせながらその店員はカップをテーブルに置いて行く。  いい香りに誘われて俺の手はカップに伸びる。  香りを楽しんで一口含むと自宅で飲むコーヒーとまた違って深みがある。   聖時もカップに手を伸ばした。 「……うん、美味いな。」  小さな声でそう呟いた。  美味いコーヒーのお陰で心が少し落ち着いた。    知事からの伝言を先に伝えることにした。 「来年の6月に着工だ。」
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