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静かにカップをソーサーに置いた。
「……え?」
「病院の建設の時期が決まった。
完成はその2年後だ。」
「……来年の…6月……」
聖時は他人事みたいに呟いた。
まあ確かに。
聖時は星野の自宅には居ないし、総合病院の院長として悠子さんと結婚する役割をあてがわれているだけで、その総合病院の建設には全く今は関与していない。
実感がわかないのかもしれない。
だからって、して良いことと悪いことがある。
俺は聖時の瞳を強く見据えた。
今日の本題だ。
「そろそろ……
女遊びはやめろ。」
聖時はゆっくりとカップを置いた。
「女遊びなんて……」
「してねえ。とは言わせねえぞ。」
苛立ちを抑えて聖時の言葉を遮った。
絶対にそんなことは言わさない。
お前は悠子さんに土下座したっていいくらいなんだ!
「俺が女遊びしてるとこでも見たのかよ。」
「聖時。」
聖時の呆れた声音が俺の心の奥をドンドン真っ黒に変えていく。
「朝……悠子さんが俺のところに来た。」
「……何しに?」
聖時の声音がひるんだ。
「心当たりがあるんじゃないのか?」
「女遊びなんてもうしてねえよ!」
聖時は俺を睨み返してきた。
……もう……?
今まではしてたってことか。
認めやがって!
それはそれで腹が立つが……
それが本当で聖時のことを信じるなら。
昨夜は本当に仕事だった。ってことになる。
「……そうか。」
聖時の言葉を思案しながら、カップに手を伸ばしてコーヒーを口に含んだ。
いつもなら入れるはずのミルクを入れ忘れるほどに、心に余裕がなかった。
深みのある苦みが口内に広がって。
こんなこと……
本当なら聖時に頼みたくなんてない。
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