強大な岩と自分勝手な月

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「聖時は知らないだろうが……  俺が高校の頃に事務長だった人を覚えているか?」 「ああ。確か……岡田さん?」 「そうだ。  あの人は星野病院のお金を不正に着服していたんだ。  業者から賄賂を貰ったりしてあの頃の星野の経営はかなりずさんで過去最高の赤字を叩きだした。  それを知って星野の経営を他人に任せるなんて出来ないと思ったんだ。  親父の守ってきたこの病院を医者じゃなく経営側として守りたいと思った。」 「……ただ単純に医者になりたくないんだと思ってたよ。」  聖時との中にあったわだかまりが少し溶けた気がして、小さく笑う。 「お前が医学部に合格しなけりゃ、死ぬ気で勉強し直しただろうけどな。  俺が俺らしくこの道を進めているのは聖時のお陰だ。  お前が必ず親父の跡を継いでくれると信じていたからな。  凛子も星野のことを思って麻酔科医になったしな。  俺たち三人いれば星野は潰れたりなんかしない。」    そう、俺たちは……  星野を守り続けるためにこの世に誕生したんだ。  それが使命。 「……それなら……反対しろよ。」  聖時は苦しそうに言葉にした。  聖時からコーヒーカップに視線を移した。 「さっきも言っただろ。  親父の夢だからだ。」  カップに手を伸ばして、コーヒーを口に含んだ。 「親父が野心家としてこの地区の未来のために総合病院を造りたいと思っているならその夢を全力でサポートしたい。」  カップをソーサーに戻して聖時に視線を向けた。 「それが星野のためにもなると……  俺は信じている。」 「俺は……」  聖時が口を開いた。  聖時の心の中にある想いを……聞けるかもしれない。 「総合病院への拡大に賛成なんてしてねえよ。」 「……え?」  それは  まさかの答えだった。 「そうなのか……?」  驚いた表情を貼り付けているに違いない。
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