強大な岩と自分勝手な月

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「お前が反対してたのは……  あの美沙緒って人がいたからじゃねえのか……?  残念だったが彼女が居なくなって……  お前の医者としての野心が戻ってきたと思っていたんだけどな。  医者になった頃にお前言ってたじゃねえか。  『俺はこんなちっぽけな病院の院長なんかで終わらねえ。』って……  お前にも大きな夢があったんじゃないのか……?」   悠子さんとの政略結婚を"しない"と言わなくなったのは  総合病院の院長になる夢を見ているんだと。  その為に、悠子さんとの結婚を受け入れたんだと。  ……思っていたんだけどな。   「俺は……  親父とは違う星野の未来を思い描いていた。」  ……違う……未来……? 「どんな未来だよ?」 「……もう今更……叶えられない……」  聖時は力なく頭を横に振った。 「……聖時……」  聖時の思い描く未来が……  俺の描いていた未来と同じだったとしたら? 「兄貴、結婚は?  ……相手くらいいるんだろ?  兄貴ももういい歳だろ。  早く結婚しろよ。」  聖時は話を逸らした。  ……結婚……か……  あんなに結婚不適合者だと自覚していたのに……  悠子さんを幸せに出来るなら  悠子さんと結婚してもいいと思っているのは……事実  だけど…… 「相手なんていねえよ。  結婚なんて今はそれどころじゃねえしな。  とりあえず、聖時の結婚が先だ。  このプロジェクトが落ち着いたら自分のことも考えるさ。」  悠子さんの婚約者は、現段階では俺じゃない。  これ以上聖時と話をしても現状は変わらない。  伝表を手にして立ち上がる。  知事に直談判してやる。  その決意を胸に聖時と別れた。  まさかこの時すでに、聖時に本気で好きな人がいたことなんて知る由もなく。  知事に直談判すれば、この現状をどうにかすることが出来るかもしれない。  本気でそう思っていたんだ。  俺は悠子さんを手に入れるためにもっと……  もっともっと  自分自身を磨かなきゃいけない。  一人前の男として悠子さんを幸せに出来る力。  知事の力を借りずとも、星野を導いて安定させることが出来る力。    俺たちの未来は……  これからどう変わっていくのだろうか。  
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