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聖時と別れてレクサスに乗り込みすぐに電話をかける。
電話帳に登録してある"指川さん"をタップした。
耳に聞きなれた電子音を聞きながら、しばらくするとその音は途切れた。
【はい、指川です。】
いつもの堅苦しい声音。
「星野です。
急に電話して申し訳ない。
今よろしいですか?」
【ええ、少しなら】
大きく息を吸って吐き出した。
「知事に話があるので、至急時間を作っていただきたい。」
【ご用件は?】
「今回の悠子さんと聖時の婚約の件です。」
【……とりあえず、知事は来週から1週間出張で不在になります。
帰宅後になりますが、よろしいですか?】
……1週間後……
「わかりました。
戻られたら連絡いただけますか?」
【承知しました。
知事にもそのようにお伝えしておきます。】
指川さんとの電話を切ってもう一度大きく息を吐き出した。
1週間はまどろっこしくてなかなかに長い。
ようやく指川さんから連絡があったのはあれからきっちり1週間後だった。
屋敷に招かれたのは夜。
個人的な用件だったから、工藤には言わずに一人でやってきた。
これから知事と対峙する俺は……
あの人から見てどんな風に映っているんだろうか。
滑稽で惨めだろうか。
それでも……
それを恐れていたら一生手に入らない。
暗闇のいばら道の奥に……
ひっそりと咲いている可憐で高貴な深紅の薔薇。
触れてはいけない。
自分のものにしてはいけない……
禁断の深紅の薔薇。
俺は、それを……
どうしても手に入れたくて
子どもみたいにもがき続ける。
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