強大な岩と自分勝手な月

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「……話を、聞こうか。」  知事の眼光の鋭さにひるみそうになる。  こんなことでひるんでいる場合じゃない。 「今回の総合病院になる条件の結婚相手は、どうしても聖時じゃないといけないのですか?」 「……どういう意味かね。」  自分の心臓の鼓動の強さで自分の声さえ聞こえにくい。 「その相手は……俺ではだめなんでしょうか。」  喉が渇いて張り付きそうだ。  俺のこの緊張感を吹き飛ばしそうなほど大きな声で知事は笑う。 「わはははは。  煌人くんは突然何を言い出すのかね。」  そして、一瞬で真顔に戻る。 「君は医者ではないだろう。」  ドクンッッ!!  知事のその一言が……  俺を沼の底の底へ突き落す。  小さくふぅと息を吐き出した。 「確かに……医者ではありませんが……  聖時より俺の方が悠子さんを幸せに出来る。」  知事の瞳を真っすぐに見つめて強い声音で告げた。 「馬鹿かね、君は!」  俺のそんな想いを知事は一笑に付した。 「君に幸せにしてもらう必要はないよ。  そもそも悠子はね、聖時くんが好きなんだよ。  医者である聖時くんのことがね。」  何度も"医者"を強調してくる知事に苛立ちが募る。 「……医者と事務長にそんなに違いがありますか?  俺は……自分の力で今の星野を立て直してきた。  聖時はきっと有能な医者になる。  だけど、俺はもっと有能な経営者になってみせますよ。」 「クック……」  俺の真剣なこの想いは全く受け入れてもらえそうにない。 「全然違うよ。」  知事はきっぱりと俺を切り捨てた。
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